時を戻し、場所を移す。

『六師』の封印された修道院を目前に立つのは埋葬機関第七位エレイシア・・・洗礼名『シエル』と第五位兼死徒二十七祖第二十位メレム・ソロモンの二人。

何故ここに二人がいるのかといえば機関長ナルバレックより『六師』封印の更なる強化・若しくは完全破壊の命を受け、ここに赴いていた。

「ここですか?『六王権』側近衆『六師』が封じられているのは」

「うんそうだよ。君は知らないだろうけど、ここには教会や騎士団から選抜された上級代行者が常時十人警戒と封印の強化に当たっているんだ」

「今までそれを続けてきたのですか?それだけ『六王権』一派が脅威だったと言うべきだったと」
「それは当然さ。『六王権』が復活すれば二十七祖を束ねるだけでない。彼がその気になれば単独でも世界を崩壊させる事だって可能なんだし神経質にもなるさ」

そうこう言っている内に二人は問題の修道院に到着した。

「・・・」

「・・・シエル」

「判っています」

二人ともうなずき合う。

異質の空気を敏感に感じ取っていた。

入り口周辺には濃密な魔力の残滓が漂い、床には僅かな血痕が付着している。

お互い戦闘体勢を崩さずに周囲を素早く索敵する。

「・・・どうやらもうものけの空のようだね」

「その様です」

二人は自分達が遅かった事を認識した。

『六師』の封印されていた地下聖堂は何かが爆発したかのように見るも無残な惨状を呈し、そこに安置されている筈の封印の石像は存在していなかった。

「メレム、あなたは直ぐに本部に連絡を」

「君は?」

「師匠と志貴君に連絡を取ります」

『六師』復活の二十四時間後の出来事だった。

黒の書三『幻獣王』

一方その頃・・・

「フィナ」

アルトルージュ・ブリュンスタッドの『千年城』でもその凶報がもたらされていた。

「どうかしたのかい?リィゾ」

「姫様からの言伝だ。第二位が復活を遂げた」

「なんだって?あの第二位が??」

「ああ、こちらも至急動かねばならん」

「そうだね。とりあえず・・・」

立ち上がろうとしたフィナの動きが止まる。

「まったく一体誰だろうね??ここに土足で上がりこむなんて」

「まったくだ」

そう言いながらそれぞれの愛剣を構える。

「やれやれ・・・鋭いねえ」

「お前の場合気配をあからさまに出しすぎている」

そんな事を言いながら現れたのは一見すると二人の人間。

だが、その体の内に秘められた魔力が正体を物語っていた。

「お前ら・・・ただの人間じゃ無いだろうね」

「大当たり。俺は『六王権』側近衆『六師』が一人『風師』」

「同じく『六王権』側近衆『六師』が一人『炎師』」

あっさりと告げられたその名に逆に二人が緊張する。

更に傍らにいた第一位プライミッツ・マーダーがのっそりと立ち上がり戦闘体勢を取る。

「おい、なんだ?この犬っころ」

やや毒気を抜かれた表情と口調でそう尋ねる『風師』。

「アホが、わからんか。あれから放たれる強烈な魔力を」

「わからねえから聞いているだろうが」

「おそらくあれが最後の二十七祖だろう」

「あの犬っころがか?」

「お前の悪い癖だ。外見で判断するな」

「判っている・・・!!ラルフ!!」

「ああ、来たようだな」

お互い一つ肯き散開する。

僅か一秒後『風師』にはリィゾが、『炎師』にはフィナがそれぞれ向かい合う。

そしてリィゾは『風師』との距離を詰め襲い掛かり、フィナと『炎師』は窓を突き破り中庭に躍り出る。

戦闘の開始だった。







「おおおおお!!!」

リィゾの魔剣『ニアダーク』が唸りをあげて『風師』を両断せんと迫る。

それを軽やかにかわすと、バックステップからミドルキックを振り込む。

「!!」

その蹴りをかわすが蹴りによって放たれた風がかまいたちと化して背後の壁に傷をつける。

「へえ・・・さすが二十七祖。昼間でもその戦闘力・・・俺の蹴りをかわすか」

「なるほどな『六王権』側近を名乗るだけの事はある。私の初太刀かわした者はそう多くないからな」

「そいつはどうも」

重厚な口上と軽口が交錯するが構えは双方とも崩さない。

そこにプライミッツ・マーダーがリィゾに加勢する。

「二対一ってありか?」

「何を世迷言を、貴様これは決闘ではないからな」

「へえへえ、ったくこれだからくそ真面目な奴は苦手なんだよな・・・まあ俺としては文句無いんだけどよ」

ぼやきながらも戦闘意欲は衰える事を知らない。

一方・・・中庭においては

「さあ、僕の『パレード』受けてごらん!!」

フィナの号令の下、幽霊船が群となり『炎師』に襲い掛かる。

「・・・手ぬるい」

そう呟くと両手から紅蓮の炎が吹き上がり幽霊船をまとめて火葬に施す。

しかし、骸骨の兵士達が続々と炎上する幽霊船より離脱し二重、三重に取り巻く。

「ちっ・・・うざったい」

『炎師』は蝿でも落とす様に骸骨達を粉砕し燃やしていくが数が多い。

十匹潰せば百匹幽霊船より降下してくる。

さらにその合間を縫うようにフィナ本人が攻撃を仕掛けそれに気を取られれば四方から骸骨たちの総攻撃が雨あられと降り注ぐ。

「ちぃ!!消えろ!!雑魚が!!」

その絶叫と共に炎が広がり骸骨達は炭と化す。

だが、

「待っていたよ全艦、一斉砲撃」

フィナの号令で生き残った幽霊船が砲撃を開始する。

『炎師』の周囲を破壊力重視のカノン砲が襲い掛かる。

「うぉぉ!!」

十発以上の至近弾と二・三発の直撃弾を受けて吹き飛ばされる。

それと同時に

「ぐお!!」

テラスの窓ガラスを突き破って『風師』が中庭に転がり落ちる。

負傷こそ無いが服はズタズタに切り裂かれ、全身埃まみれとなっている。

最もそれは『炎師』も同じ事であるが。

「よう、お互い手ひどくやられてるな」

「ああまったくだ。流石は二十七祖。そうも簡単には任務を遂行出来んようだ」

互いに互いの近況を見やると背を預けて互いの相手と対峙する。

「ここまでしぶといとはな」

「流石に『六王権』側近だけはあるね」

リィゾとフィナが感心する。

そんな中でもプライミッツ・マーダーのみは敵を凝視し、何時でも攻撃を取る事が出来る。

「さてと再開と行くか」

『風師』の言葉と同時に四人と一匹は戦闘を再開する。

だが、やはり真正面からの戦闘ではリィゾ達にかなりの分がある。

三対二の数字上の不利もあるがそれ以上に援護射撃で襲い掛かる幽霊船団と骸骨兵士達に集中出来ないと言うのも一因にあった。

瞬く間に押しやられ追い詰められる。

「なめるなああああ!!!」

だが、そんな逆境にも怯む事無く、雄叫びを上げて『風師』は骸骨兵士を薙ぎ払いながら、フィナに接近するとヤクザキックを腹部にぶち込む。

「!!!」

声ならぬ絶叫を上げて十メートル以上後方に吹き飛ばされる。

「ついでにてめえもだ!!」

返す刀でリィゾにも側頭部にハイキックを叩き込もうとするがその瞬間、『風師』が逆に吹き飛ばされた。

「げふっ!!・・・こ、この犬っころ!!」

その犯人はプライミッツ・マーダーだった。

リィゾに攻撃を仕掛ける寸前、体当たりを丁度鳩尾にぶちかまして攻撃を防いだ。

一人と一匹はもつれ合いながら転がり、止まった時プライミッツ・マーダーが『風師』を押し倒し咽喉仏を食い千切ろうと牙をむき出す。

「ざけんなっ!!!」

だが、それも間一髪で右腕だけ自由にしたのと同時にアッパーカットを叩き込んで上空に吹き飛ばした事で回避する。

「ちい!!失せろ!!」

一方『炎師』も周囲の兵士を大掃除するが先程の比ではない量の敵が密集する。

更にそこにフィナやリィゾが攻撃を仕掛ける為周囲に気を配らないとならない。

だがそれに気を配っていれば今度は砲撃が雨となって降り注ぐ。

「たいした腕だ。さすが『六王権』側近衆。だが、ここまでだ。これで終わりとしよう」

「そうだね。ああでも殺しはしないよ。君たちには『六王権』の居場所とか話してもらわないと困るし」

「へっ誰が話すか」

「そうだ。我らにとって陛下は絶対。陛下の利にならぬ行為等取れん・・・だが少々分が悪いな・・・ユンゲルス止むを得ん」

「出すか・・・久方ぶりに」

「ああ」

二人が同時に肯く。

「??リィゾなんか魔力が・・・」

「ああ、何だ?」

二人が構え直した時それは起こった。

突如『風師』からハリケーンクラスの暴風が巻きあがり、『炎師』からは石畳すら溶かす超高温の炎が吹き上がる。

その余波で幽霊船団が一隻残す事無く風に翻弄され、焼き尽くされる。

だがそれを見る者は誰もいなかった。

何故ならば、それは終わった時、『炎師』・『風師』の頭上には・・・

「な、なんだと??」

「ちょっと待ってくれ・・・これって・・・幻獣」

幻想種としか表現できないモノがいた。

『風師』の頭上には全身を風に覆われた少年、『炎師』には溶岩で創られたかと錯覚するほど不気味に紅く光る肉体を持つ長身の男がいた。

「半分当たり、だが半分外れ。紹介するよ。俺と共に生き抜いてきた風の幻獣王『シルフィード』

「私の相棒であり私の半身、炎の幻獣王『ジン』

その言葉にいよいよ二人は戦慄した。

幻獣王・・・いわば幻獣と括られる幻想種を取り纏める王たる存在。

一説にはその力は幻獣所か、聖獣のランクに括られるとも言われ、幻想種の長たる竜種と同等に崇められる存在。

だがその数は王であるが故に極めて少なく、確認出来ているのは六体だけと言われている。

プライミッツ・マーダーすら戦闘体勢を解き呆然と立ち竦んでいる。

幻獣王など一介の死徒等に扱えるものでは無い。

「何故お前達が幻獣王を?」

「これは陛下からのお預かりもの」

「別に俺達が支配している訳じゃないぜ」

事も無げに言い放つ『炎師』と『風師』。

「さて、第二ラウンド・・・と行きたい所だが俺達にも野暮用があってな」

「生憎だがこれで中断するとしよう」

そう言うと二人は同時に指を鳴らす。

それと同時にだろうか?

二人の頭上にいた幻獣王二体が姿を消し、まず暴風が荒れ狂った。

その風は周囲に広がりある一定の範囲で・・・『千年城』を丸々覆い・・・停止した。

あたかも台風の目の様に・・・

だが異変はそれで終わらない。

更に周辺の温度が急速に上昇を初め、だと言うのに液体が凍結を始める。

「ばかな・・・何故・・・」

「リィゾ・・・やばいよ。連中ここ一帯の空気を抜いて真空にしつつある」

「なんだと・・・」

「更に・・・先程の炎の幻獣王を使っての事だろうが温度を上げている。しかし・・・何の為に?」

真空状態では身動きもままならない。

魔力を使い自身の身体をガードするのが精一杯だ。

迂闊に動けば周囲の真空に押し潰される。

「なあ、あんたら・・・『バックドラフト』って現象知っているか?」

そんな中、涼しい表情で『風師』が世間話でもする様に話しかける。

「な、なんだと??」

「炎が燃焼した直後の密閉した空間で新鮮な空気が流れ込むと爆発的に燃焼する現象だ。かなりはしょっているがそんな所だ」

『炎師』が言葉を繋ぐ。

「で、その『バックドラフト』と今の状態何の関係があるんだ?」

「あんた達は気付いていない様だが、今この周辺は『ジン』の力で何時発火してもおかしく無いくらい温度が上昇している」

「だが、『シルフィード』の力で風で壁を作りその上で空気を抜いて物が燃えるのに必要な酸素を根こそぎ抜き取っている。だからこそ燃焼しないんだがな」

「いわば今現在この周囲は密閉されている」

「そして今頃この一帯はかなり温度が上昇してるだろうな・・・空気があれば一気に燃え上がる位」

「「さて、もしここに大量の空気が一気に投入されれば一体どうなるかな?」」

そう言って二人は笑った。

台詞の内容は恐ろしい事この上ないが、その表情は残忍な笑みと言うよりはいたずら小僧が火遊びをする様な子供っぽい笑顔だった。

だがそれ所で無いのがリィゾ達である。

彼らの言葉を信じれば、この『千年城』一帯を風・・・いや、気流で密閉しその上で空気を抜いて、更に温度を急上昇させている。

もしこれだけの範囲で『バックドラフト』が・・いやそんな生易しいもので済むかどうかも疑問だが・・・発生したらどうなるか?

だが動こうにも真空状態では身動きもままならない。

「だが、それでは貴様らも無事ではすむまい」

「ああ、そりゃ大丈夫。俺達は風や火に同化出来るから」

「その力を使い同化すればさほど問題ではあるまい。後ついでにもう一つ」

「この爆発には俺達の魔力も十分に上乗せしているからから存分に味わってくれ」

だが、その言葉待たずして飛び込んできた影がある。

プライミッツだった。

このまま爆発させまいと真空状態で活動する事がどれほど危険極まりない事か承知した上で攻勢を仕掛ける。

だが、その爪が『風師』に届く寸前、不意にプライミッツの身体が浮き上がる。

『シルフィード』の両手から放たれた風が縄の様に縛り上げ引き上げた為であった。

それを『ジン』の丸太の腕が薙ぎ払う。

一声鳴いて吹き飛ばされる。

「さてと・・・それじゃあ・・・」

「終わりとしよう」

そう言うと二人は同時に指を鳴らした。

・・・インフェルノ・・・

その瞬間バックドラフトと呼ぶのも気恥ずかしくなる様な大爆発が『千年城』を覆う。

その威力は核爆発すら凌ぐ威力となり、気流だけでなく大地すらその恐怖に振動させる。

ようやくその爆発が収まり轟音が静まり返った時には『千年城』は完全に崩壊、瓦礫の山と化していた。

「お〜お、派手にやりすぎたか?」

「まあ良いだろう。今回は陽動だからな。これだけ派手にやらないと陽動にはなるまい」

『千年城』の跡地を眼下にそう言い合うのは『風師』と『炎師』。

二人は先程の宣言通り直前に風と火に同化し離脱していた。

「それもそうか。それじゃあ戻るか」

「ああ、『影』殿の事も気になるし、何よりも・・・」

「ああ陛下のご容態も気がかりだしな」

「ああ」

その瞬間『炎師』と『風師』は姿を消した。

その僅か五分後キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグとコーバック・アルカトラスがこの地を訪れ瀕死の重傷を負った二人と一匹を回収する事により混乱と混迷はさらに深まる事になる。







ほぼ同じ時『闇千年城』において・・・

城主である『六王権』は未だに自室において深い昏睡を続けていた。

「ふう・・・王様まだ回復しないのかな?」

そんな主君の傍らにおいて心配そうにそして退屈そうに呟くのは『光師』。

彼は『風師』達がそれぞれ行動を開始してから、部屋から一歩も出る事無く主君の世話を続けている。

まだ開始されてからそれ程時間は経過していない。

だが、『六王権』に絶対の忠誠を誓う『六師』にとってそれは封印されていた時よりも永く辛いものであった。

ことに主君を実の父親以上に敬慕している『光師』にとってその傾向は顕著であった。

「あら?『光師』、まだ陛下のお部屋にいたの?」

そんな『光師』に声を掛けたのは『水師』。

「うん・・・」

「ふふっ・・・大丈夫よ。『風師』や『炎師』、それに『影』様も動いているのよ絶対上手くいくわ」

「うん・・・判っているんだけど・・・」

そこまで言った時だった。

「『水師』!!『光師』はどこ??」

『闇師』が突然駆け込んでくる。

「あら?エミリヤちゃん?『光師』ならここよ」

「もう!私の本名で呼ばないでよ・・・で、そこにいたの。丁度良いわ。二人とも直ぐに来て」

そういって『光師』を引き摺るように会議室に連れて行く。

「姉ちゃん、どうしたの?」

「直ぐにわかるから・・・『地師』、『光師』と『水師』を連れて来たわ」

「ああ」

会議室ではやや気難しそうに外の映像を眺める『地師』がいた。

「あなた、いかがなされたのですか?」

「ああ、ここ数分『闇千年城』周辺を飛び回っている蝿がいる。その為皆に意見を聞こうと思ってな」

見ると確かに周辺を彼らの言う蝿・・・戦闘機がしきりに旋回して飛び回っている。

「蝿だったら無視すれば良いんじゃないの?」

「最初はそう思ったのだが・・・あまりにもしつこくこの周辺に留まり続けている。落とすべきかどうか・・・」

「・・・この『闇千年城』が人間の手に発見される事は万に一つも無いはずなんだけど・・・確かに少々鬱陶しいわね」

「ですが、藪蛇と言う言葉もあります。迂闊に手を出し陛下も昏倒され『影』様に『風師』・『炎師』が不在だと言う事が知れるのも」

「・・・拙いね」

「でも、だからと言って手をこまねくのもどうかと思うけど?」

四人の議論が堂々巡りしつつあった時、

「そうだ!!」

『光師』が良い事を思いついたように笑う。

「どうした?」

「様はさ・・・ばれなきゃ良いんでしょ?」

そう言うと、不敵な笑みを浮かべて眼を閉じる。

「さあ・・・出番だよ・・・出ておいで」







その頃外では・・・

『・・・こちらデルタX、やはり周辺には異常見当たりません』

「わかった。デルタTより各機、後五分担当宙域にて探索を続行。その後この宙域より離脱する」

『了解!!』

五機編成で『闇千年城』周辺を索敵していた戦闘機部隊は『地師』達の推測通り『闇千年城』の姿は確認出来ていなかった。

『しかし、隊長、一体なんだったんでしょうか?あの反応は?』

「さあな、誤認にしては反応が大き過ぎる」

『ですがいざ来て見れば何の異常も無し、となればレーダーの故障じゃないんですか?』

『気を緩めるなよその考えが・・・!!デルタVよりデルタチーム全機!!』

「どうした!!」

『じょ・・・上空に・・・』

「上空??何が・・・」

『あ、ああああ・・・』

『おい・・・あれは・・・』

『ば、馬鹿な・・・』

彼らが見たものそれは・・・天使だった。

比喩でなく正真正銘本物の天使だった。

背中に六対の純白の翼を持つ、壮麗な・・・

その天使から光が放たれる。

「「「「「・・・ああああああ・・・」」」」」

そしてその光が収まった時、

「全機・・・帰還する・・・ここには何も異常は無い・・・」

『『『『了解・・・』』』』

感情が欠落した無味乾燥した声で命令を放ちそれにやはり機械のような声で応答する。

そして彼らは帰還したがその後、あの宙域で見た事を思い出す事は無かった・・・永久に・・・







「よし、帰ったよ」

「その手があったか・・・」

「うん、落とすのだけが方法じゃないでしょ?」

「そうね『ガブリエル』の力があったわね」

「ええ、すっかり忘れていたわ」

「ひどいな〜皆して」

むくれる『光師』に苦笑する残り三人。

そう、上空に姿を現した天使こそ『光師』の半身、光の幻獣王『ガブリエル』。

大天使と同じ名をもつ幻獣王『ガブリエル』の放った光が催眠術・・・いや、一種の記憶操作を行い、"異常無し、自分達は何も見ていない"と偽の記憶を埋め込んだ。

完全な記憶の上書きを行ったので甦る事は決して無い。

そのまま何もせず帰しても良かったが今後もうろつかれては後々に響く。

それ故にこの様な手荒な方法となった。

「どうしたんだ?何皆笑っているんだ?」

「大方『光師』がドジやって笑っているんじゃねえのか?」

そこに戻ってきたのは陽動作戦を終了させた『風師』と『炎師』。

「あら、おかえ・・・ちょっと!!どうしたのよ!!あんた達その格好!!」

驚いた声を出す『闇師』だったが、それも当然。

何しろ『風師』、『炎師』共に怪我は無いようだが、服はボロボロ、土埃まみれときている。

これで驚くなと言う方がおかしい。

「いやな、陽動相手が事の他骨のある奴だったんでな」

「やむを得ず『ジン』と『シルフィード』を展開させた」

「はあ・・・その様子だと派手に暴れて来たようね・・・」

「当然」

「無論だな」

「威張るとこじゃないよ・・・兄ちゃん達・・・」

「それで首尾は?」

「ああ、上々」

「死徒の姫君の『千年城』を完膚なきまでに破壊してきた。おそらく少しは時間を稼げる」

「じゃあ後は『影』の兄ちゃん待ちか・・・」

「あら?『光師』は何処に?」

「王様の所」

そう言うとさっさと『光師』は会議室を後とする。

「ふう・・・ともかくあんた達はさっさと水浴びして汚れを落としなさい」

「それと服は置いておいて。私とエミリヤちゃんが繕いでおくから」

「了解」

「判りました。お願いします」

そう言って湯浴み場に向かう二人。

「さてと・・・私は索敵を続ける。後は頼む」

「はいあなた」

「じゃあお願いね『地師』」

その時だった。

「みんな!!来て!!」

『光師』の興奮しきった声が聞こえる。

「??」

「どうしたのかしら?」

「行って見るか」

顔を見合わせてから『六王権』の寝室に向かう『闇師』・『水師』・『地師』。

そこには・・・

影のようなものに全身を覆われた『六王権』がいた。

「陛下?」

「感じるわ・・・魔力が陛下に流れ込んでる」

「この量が持続すればおそらく二日程で陛下も意識を取り戻される」

「王様元気になるんだよね?」

喜色に満ちた声を上げる『光師』達、だがそこに

「おい!!どうしたんだ?」

「おお!!陛下に魔力が!」

『風師』と『炎師』が飛び込んできた。

無論だが全裸で。

そして運悪くそれを真正面から見たのは『闇師』だった。

「な、なななななあ・・・」

頭がショートしたかまともな発音が出来ない。

「ん??」

「おい・・・拙いぞ」

「へっ?・・・ああ悪い」

何かが切れる音がした同時に『水師』・『地師』・『光師』が退避する。

ちなみに『炎師』は既に離脱している。

「悪いじゃないでしょうが!!!!!このど変態!!!」

この絶叫と共に肉がつぶれる様ないやな音が響いた。

「『水師』母さん、姉ちゃんまた壊れたの?」

「そうね。好きな人の裸を間近で見たから興奮しているみたい」

「そんなものなの?どう見ても姉ちゃん怒り狂っているんだけど」

「ええ、そんなものなのよ。あそこまで過激じゃないけど私も・・・ね?」

意味ありげに夫を見る『水師』に苦笑を浮かべる『地師』。

第三者から見れば信じがたい光景であろう。

とても想像する死徒とかけ離れた光景なのだから。

しかし、彼ら死徒二十七祖第二位『六王権』側近衆『六師』の脅威と恐怖は後に開戦する『蒼黒戦争』において全世界を震え上がらせる事になる・・・

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